技術と知識

【金継ぎ講座第3回】ワレの接着 ~麦漆の作り方と美しく仕上げるコツ~

【金継ぎ講座第3回】ワレの接着 ~麦漆の作り方と美しく仕上げるコツ~
Sho Takeshita

この記事を書いた人

Sho Takeshita 金継ぎ師

日本の東京都出身、立教大学卒業。祖母から受け継いだ茶碗が割れたことをきっかけに金継ぎの道へ。壊れたものを新しい美しさへと昇華させる哲学に感銘を受け、東京にある金継ぎ工房で技法を習得。現在は金継ぎを軸に、日本古来の美意識と現代的な感性を掛け合わせた作品を制作している。

金継ぎのやり方を6回に分けて解説する「ANYTSUGI金継ぎ講座」。第3回になる今回は割れた器を貼り合わせる「ワレの接着」について解説します。

金継ぎで使う接着剤は「麦漆(むぎうるし)」——小麦粉と生漆を練り合わせた、天然の接着剤です。麦漆は硬化後に素材と一体化するため、熱や水分でも剥がれてきません。自然由来の素材でできているので、食器としても安全に使用いただけます

→道具や素材の準備がまだの方は[第1回:金継ぎを始める準備]

→ヒビの補修がまだの人は[第2回:ヒビの補修方法]

作業前の確認:目止めしたほうがよい陶器かどうか

白い陶器・釉薬が薄い陶器(表面がザラザラした器)の方だけこのセクションを確認してください。磁器(つるつるした白い器)の方はスキップしてStep 1へ進んでOKです。

陶器と磁器の違いが分からない場合は下記の表を参考にしてください。


 陶器 磁器
指で弾いたときの音 低くて鈍い音 キンと高い音
表面の質感 ザラザラで温かみがある ツルツルで冷たい
太陽光で透かしたとき 光を透かさない 光が少し透ける

釉薬の薄い(表面がザラザラした)陶器は表面が多孔質で、漆が内部に染み込んでシミになることがあります。「目止め(めどめ)」という下処理をしておくことでこのシミを防げます。

目止めの手順

  1. 鍋に器が完全に浸かる量の水を入れる

  2. 水1000mlに対して薄力小麦粉20gをよくほぐして加える(ダマに注意)

  3. 器を入れて弱火〜中火で沸騰させる(粉が沈まないよう時々混ぜる)

  4. 沸騰したら弱火で20分煮る

  5. 火を止め、水が室温になるまで数時間置く

  6. 器を取り出してぬめりが取れるまで水洗いし、一晩乾燥させる

Step 1:断面を面取りする

面取り

破片の断面(割れた面)をダイヤモンドヤスリで削ります。これを「面取り(めんとり)」といいます。

なぜこの作業が必要かというと、割れた断面には釉薬が残っているツルツルした部分があり、そのままでは麦漆がうまく密着しないからです。ヤスリで削ることで表面がザラつき、漆がしっかりくっつくようになります。

削る目安:破片どうしを合わせたときに幅0.5mm程度の溝ができる程度。断面に爪を当てたとき、少しひっかかる感触があればOKです。

Step 2:麦漆を作る

ワレを接着するために使う天然の接着剤「麦漆」を作ります。

使う道具・材料:生漆・薄力小麦粉・水・パレット・匙・ゴムヘラ・スポイト

※漆を使用するため、作業中は必ずニトリル手袋を着用してください。

手順1:パレットに薄力小麦粉を匙1杯分ほど出す

麦漆の作り方
使用する匙によって1杯の量は様々だと思います。接着するワレの長さにより必要な麦漆の量は変わるため、小麦粉の量はおよそで大丈夫です。

直径15cmの器が半分に割れている場合であれば、小指の爪くらいの量を目安にしてください。

手順2:スポイトで水を1滴ずつ加えながら、ヘラでよく練る

麦漆の作り方

スポイトで水を少しずつ加えながら小麦粉を練っていきます。最終的に加える水の量は、小麦粉と同量程度になるようにしましょう。

ゴムヘラを使って小麦粉を練っていき、パン生地や耳たぶのように少し弾力がある硬さ(硬すぎず柔らかすぎず)を目指します。

水分量が多いときは小麦粉を少し足して調整し、粉っぽいときは水を少し足して調整してください。

手順3:できた小麦粉ペーストと同量の生漆を練り合わせる

パレットに、先ほど作った小麦粉ペーストより少し多い程度の生漆を出します。生漆を1/3ずつ加えながら、ゴムヘラでよく練り合わせます。

完成のサインを確認しましょう。ゴムヘラを押し当てて上に持ち上げたとき、7~10cmほどゆっくり伸びて、糸がゆっくり切れるほどの粘り気があれば「麦漆」の完成です。

水気が足りず粘り気が足りない場合は、少し生漆を加えてさらに練り合わせます。

水気が多くて粘り気が出ない場合は、小麦粉ペーストを追加で作成して少しずつ追加します。

余った麦漆の保存:使い切れなかった麦漆はラップに包んで2〜3日保存できます。ただし古くなると硬化が悪くなるため、できるだけ使い切るようにしましょう。

 

Step 3:破片を接着する

麦漆を接着剤として割れた破片を接着していきます。

使う道具・材料:麦漆・竹ヘラ・マスキングテープ・漆風呂

※漆を使用するため、作業中は必ずニトリル手袋を着用してください。

手順1:マスキングテープを事前に準備する

接着後はマスキングテープで仮止めするので、事前に3~5cm程度に切ったマスキングテープを10枚ほど、あらかじめ手の届くところに貼り準備しておきましょう。

マスキングテープ

美しく仕上げるポイント:表面がざらざらした器(釉薬が薄い陶器)は漆のシミがつきやすいため、接合部の周囲をマスキングテープで保護すると美しく仕上がります。

磁器の断面をマスキングテープで保護

手順2:竹ヘラを使いワレの断面に麦漆を薄く塗る

竹ヘラで麦漆を断面に塗る

麦漆はワレの断面の両側になるべく薄く塗ります。破片どうしを合わせたときに、割れ目から麦漆が少しだけはみ出る程度を目安にしてください。

麦漆を塗ったあとの状態

手順3:破片をひとつずつ合わせ、マスキングテープで固定する

マスキングテープで補強する

マスキングテープは割れ目に対して垂直に貼りましょう。割れ目を覆うように貼りすぎると漆が空気に触れられなくなり、硬化しにくくなります。

ここまでと同じ要領ですべての破片を接着し、マスキングテープで補強してください。

麦漆を接着した後の完成品

手順4:接着後にズレや段差がないかを確認する

デザインナイフの背で段差を確認

デザインナイフの背(刃ではない側)でそっと断面を触れて、ズレや段差がないかを確認しましょう。ズレていた場合はこの段階で修正します。

手順5:漆風呂に入れて1週間ほど硬化させる

漆風呂

漆風呂とは、ダンボール箱(もしくはタッパーなど)と濡れタオルで作る簡易的な湿度管理ボックス。

作り方は簡単です。修復している器が余裕を持って入るサイズのダンボールやプラスチック容器を準備して、固く絞った濡れタオルを入れるだけ。ダンボールを使用する場合は防水のためビニール袋などを底に敷いてください。

ワレを修復したあとは、器を漆風呂に入れて約1週間硬化させます。

漆が硬化する環境は、気温20〜25°C・湿度65〜80%が適切といわれています。日本の冬だと温度が下がりすぎてしまうこともあるので、なるべく温かいところで保管しましょう。

Step 4:硬化後にはみ出た麦漆をデザインナイフで削り取る

硬化した麦漆をデザインナイフで削る

1週間ほど放置して麦漆の硬化が完了したら、デザインナイフではみ出た麦漆を削り取りましょう。完全に硬化した麦漆はカッターで削りやすい状態です。器の表面を傷つけないよう、丁寧に取り除いてください。

ここまでできればワレの接着工程は完了です。使った道具を掃除して、次の工程に進みましょう!

Step 5:道具を片付ける

使用した道具の片付け方を解説します。

パレット・ゴムヘラの掃除方法

ゴムヘラとパレットの掃除方法
ゴムヘラの掃除方法
  1. パレットに油を出して漆を剥がしやすくする
  2. ティッシュペーパーで汚れを拭き取る
  3. きれいになるまで1~2を繰り返す
  4. エタノールを含んだティッシュで仕上げ拭き

竹ヘラの掃除方法

竹ヘラの掃除方法
  1. 付着した漆をティッシュペーパーで拭き取る

※長年使用するなかで竹ヘラの先端に漆が付着して取れなくなれば、紙やすりで削って落としてください。普段の掃除はティッシュで拭き取るだけで十分です。

次回の金継ぎ講座:カケを埋める方法

次回の第4回金継ぎ講座では「カケを埋める方法」について詳しく解説予定です。生漆を今回と別の素材と混ぜ合わせることで、パテのようにして修復していきます。それでは次回も頑張っていきましょう!

[第4回金継ぎ講座:カケを埋める]

コメントを書く

このサイトはhCaptchaによって保護されており、hCaptchaプライバシーポリシーおよび利用規約が適用されます。

前後の記事を読む

【金継ぎ講座第2回】ヒビの補修方法 ~生漆でヒビの水漏れを対策~
【金継ぎ講座第4回】カケを埋める ~刻苧漆と錆漆の使い分け~