割れた器や欠けた器を、漆と金粉で修復する日本の伝統的な修復技法——それが金継ぎです。傷を隠すのではなく、金の線ごと器の一部として新たな美しさを与えます。その考え方が今、国内外で広く注目されています。

本シリーズでは、初心者向けに本漆金継ぎの手順を全6回に分けて解説します。第1回の今回は作業に入る前の準備フェイズ。「自分の器は直せるか」「何を用意すればいいか」「完成まで何ヶ月かかるか」「漆でかぶれないか」——こうした疑問に答えます。
金継ぎは職人技で難易度が高いというイメージを持たれる方が多いですが、正しい道具と手順さえわかっていれば、初めての方でも自宅で完成まで持っていけます。大切なのは器用さではなく、コツコツ進める根気です。
確認すること①:自分の器は金継ぎできる?

金継ぎしたい器がある場合、まずは器の素材や状態を確認しましょう。
陶器・磁器など一般的な食器のほとんどは対応できます。ただし、以下の素材は初心者が金継ぎで修復するのが難しいです。
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ガラス
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プラスチック・樹脂
ガラスやプラスチックは表面が極めて平坦であるため、漆が食いつきにくいです。今回は初心者向けの記事なので、一般的な食器(陶器・磁器)に対しての金継ぎ方法を解説します。ほかの素材に対する金継ぎ方法は、後日記事にできればと思います。
確認すること②:器の損傷状態は?金継ぎでなおせる?

金継ぎで修復できるのはワレのようなシンプルな損傷だけではありません。破片をなくしてしまった「カケ」でも、漆を粉材と混ぜてパテ状にすることで修復することができます。
カケが多いほど修復にかかる時間は長くなりますが、どんなにバラバラに割れてしまった器でも時間をかければ金継ぎで修復することは可能です!
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損傷の種類 |
特徴 |
|---|---|
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ワレ |
器が2つ以上に割れた状態 |
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カケ |
縁や表面の一部が欠けた状態 |
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ヒビ |
割れていないが、表面にひびが入った状態 |
筆者の経験上もっとも多いのはワレです。「テーブルから落としてしまった」「気づいたら二つに割れていた」—などが多数。カケ、ヒビ単独はあまり多くありません。
損傷が複合的なときに、何から始めるかはこの記事の末尾で案内します。
金継ぎに必要な「道具」と「材料」
本漆金継ぎで使う材料と道具を、全工程分まとめてリストアップします。
▼購入が必要なもの
- 生漆
- 金粉
- 木の粉
- 砥の粉
- 黒粉
- 弁柄粉
- 筆
- 竹ヘラ
- ゴムヘラ
- パレット
- 匙
- スポイト
- 耐水ペーパー
- 真綿
- デザインナイフ
- ダイヤモンドヤスリ
- ニトリル手袋
- マスキングテープ
▼自宅にありそうなもの
- 薄力小麦粉
- エタノール
- 食用油
- ティッシュペーパー
- ダンボールやタッパー
生漆

生漆はウルシノキの樹液であり、金継ぎの核となる材料です。ワレの接着、ヒビの補強、ワレの補修などほぼ全ての工程で使用します。

後述しますが、硬化前の生漆に触れるとかぶれる恐れがあります。チューブ式で販売されているものが手に入りやすく、扱いやすいでしょう。
金粉(銀粉・プラチナ粉)

金粉は仕上げで金のラインを彩るために使用します。金箔が食用になっているように、金は人体に無害な金属であるため、純度の高い金粉で修復することで食器としても安全に使用できるようになります。
代用として真鍮粉が用いられることがありますが、真鍮粉は金ではなく銅と亜鉛の合金です。金色なだけで食品安全性は保障されない点には注意が必要です。
木の粉、砥の粉

木の粉は名前のとおり木を粉末状にしたもの、砥の粉は石を細かい粉末状にしたもの。
生漆と混ぜることでカケを埋めるために使用する「刻苧漆」になります。砥の粉だけを混ぜることで、小さな凹凸を平らにする用途の「錆漆」も作成できます。

黒粉、弁柄粉

黒粉や弁柄粉は生漆と混ぜることで、黒漆や弁柄漆などの色のついた漆を作成できます。

筆

竹ヘラ

ゴムヘラ、パレット

ゴムベラは漆と粉材を混ぜ合わせるときに使用します。
パレットは漆を他の材料と混ぜ合わせるときに使用します。アクリル製かガラス製のものが主流ですが、個人的にはガラスのほうが汚れが落ちやすく使いやすいです。
ただし価格はガラスのほうが高いため、初心者は安価なアクリル製で十分です。
匙、スポイト

匙は粉状の素材をパレットに出す際に使用します。スポイトは水を少量混ぜるときに使用します。匙とスポイトはどのようなものでも大丈夫ですが、小さめのものがおすすめです。
耐水ペーパー

真綿

真綿は金粉を蒔くときに使うものです。小さくまとめて金粉をつけることで、漆のうえに美しい金のラインを描くことができます。
デザインナイフ

硬化した漆を削るときに使用します。刃を差し替えることができるものであれば、さまざまな形状の器にも対応しやすいです。市販されているものだと、オルファのアートナイフが扱いやすくておすすめ。
ダイヤモンドヤスリ

器の表面を削るときに使用します。耐水ペーパーでは削るのに時間がかかる作業でも、ダイヤモンドヤスリがあれば速く終わらせることができます。
ニトリル手袋

漆が手に付着しないように、作業中は手袋を着用する必要があります。通常のゴム手袋でも問題はありませんが、耐油性の高いニトリル手袋のほうがおすすめです。
マスキングテープ

破片を接着するときに強度を保つためや、漆の汚れから器を保護するために使用します。
薄力小麦粉

薄力小麦粉は漆と混ぜて麦漆を作るときに使います。スーパーに売っている普通の薄力小麦粉で問題ありません。
エタノール

エタノールは片付けのときに汚れを落とすために使います。エタノールは濃度によって種類がいくつかありますが、無水エタノール(99.5%)か、消毒用エタノール(95.1%~96.9%)がおすすめです。
消毒用エタノール(76.9%~81.4%)でも代用できますが、濃度が高いほど漆を除去しやすくなります。
食用油
サラダ油、菜種油、キャノーラ油などご家庭にあるものをご準備ください。油は漆が肌についてしまったときの除去用、道具のお掃除のときに使用します。
ティッシュペーパー
道具を掃除するときに使用します。
ダンボールやタッパー
漆の硬化には気温20〜25°C・湿度65〜80%程度が適切。濡れふきんを入れて湿度を保つため、修理する器が余裕を持って入るサイズのダンボールやタッパーを準備してください。
必要な材料が入った金継ぎセット

専用の材料と道具はANYTSUGIでキットとしても販売しています。個別に集めるのが大変な場合は、購入を検討してみてください。
紹介した材料のうち、エタノール・小麦粉・油・ティッシュ・ダンボールやタッパーはキットに入っていないのでご注意ください。
金継ぎは完成までどのくらい時間がかかる?

作業を始めて完成するまで、約1か月かかります。
ただし、その大半は待ち時間です。漆が固まるのを待つ時間がほとんどで、実際に手を動かしているのは全工程合わせても数5時間程度。一工程の作業は20〜30分で終わり、あとは漆風呂に入れて数日〜1週間ほど放置します。その繰り返しです。
休日に少し作業して平日は放置。そんなペースで十分進められます。漆は急かせない素材です。ゆっくり向き合う時間そのものが金継ぎの醍醐味でもあります。
漆は安全?かぶれが心配な方へ

漆でかぶれるのは事実です。ただし注意が必要なのは、液体の状態のときだけです。
「液体の漆」と「硬化した漆」は、まったく別物
液体の漆は皮膚に触れるとかぶれの原因になります。わずかに気化もするため、作業中は換気も必要です。
一方、硬化した漆は完全に無害です。日本では何百年も食器に使われてきた素材で、漆が固まれば日常的に食器として使い続けられます。金継ぎした器を安心して使えるのは、この特性があるためです。
かぶれ対策は「手袋+換気」の2つだけ
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ニトリル手袋を着用する
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換気のよい場所で作業する
この2つを守れば、初めての方でも安心して作業できます。
万が一、肌に漆がついてしまったときは食用油でやさしく拭き取り、石鹸とぬるま湯で洗い流してください。かぶれの症状(赤み・かゆみ・水ぶくれ)が出た場合は、医師に相談しましょう。
マンゴーやウルシ科の植物でかぶれたことがある方は、体質的に反応が出やすいケースがあります。作業には特に気をつけてください。
損傷タイプ別:金継ぎで始めに行うべき作業
直し方の手法については次回以降で解説していきます。修理する器によって、次に行うべき作業が異なります。器の状態に合わせて次の記事へ進みましょう。
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器の状態 |
次に読む記事 |
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ワレがある |
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カケだけある |
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ヒビがある |
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ワレ+カケがある |
「自分の器がどれか分からない」という場合は、ほとんどのケースでワレがメインです。迷ったら第3回から始めてみてください。















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